ブラストが笑う夜

公演日:2011年6月13日 会場:ルミネtheよしもと
出演者:ブロードキャスト/ソラシド/若月/梶剛石田明(NON STYLE)
脚本:石田明(NON STYLE) 演出:鈴木つかさ

昨年10月に神保町で上演された公演の再演目。
石田さんの脚本かつ、ブロードキャスト班と言うことで過去見たお芝居の中で
一番好きと言っても過言ではない作品です。ので、多少心酔しすぎている感はお見逃し下さい。
主観込めまくりなのでレポ―トとして成立しないと思うんだよな…まあ感想と言うことで。


初演時のフライヤーの煽りは
「ただの強がりだったんだ。あまりにもバカにするから。耐えれなくて。だから僕は廃墟の病院に行ったんだ。ブラストの野郎…」
でした。これは主役である鉄男(吉村さん)の言葉と見せかけて、ブラストの言葉とも取れるのかな。
被害者と加害者が入れ替わる錯覚。(ほんとはそんなに深い意味ないかもしれないけど)

役柄のおさらいと、物語の舞台である第一回生病院の廃墟に集まった経緯。

草木鉄男 - ブロードキャスト・吉村
 30歳。引きこもり。芸人のブログを荒らすことでストレスを発散している。ブラストと名乗る人物から殺人予告を受ける。
西郷武 - ブロードキャスト・房野
 第一回生病院の廃墟を巡回する警備員。おばけが怖い。
黒石誠治 - 若月 徹
 殺し屋レッドウルフ。出会い系サイトで知り合ったマイちゃんにご執心。第一回生病院へは拳銃の受け取りでやって来る。
青山純吾 - 若月 亮
 心霊スポットに来る若者を驚かせて楽しむバカップルの片割れ。原付免許を取るのに20回以上落ちている。
渋谷ワカナ - ソラシド・水口
 青山の彼女。小さい頃の夢は武闘派ナース。
板井一馬 - ソラシド・本坊
 第二回生病院の医師。間違って配送された医療器具を探して第一回生病院へ。
稲富銀蔵 - 梶剛
 武器商人。耳が遠いので補聴器を付けている。趣味は手芸。
上村敬太 - NON STYLE・石田 ※再演での追加キャラクター
 西郷とともに第一回生病院を巡回する警備員。顔色が悪く、何かと気絶しがち。


石田さんが加わることでほんの少しだけ形を変えたこのお芝居。
正直な所、見比べてみてオープニングの演出やキャストのパッケージは神保町のが好きでした。
エンディングが2パターンできてしまったので、敢えて比べるとしたら…くらいの感覚ですが。

それでもオープニングの演出はさすがつかささん。
初演はセンターに一人一人出てきて、下手側の受付の窓に出演者の名前のみ(毛筆の手書き)でしたが
ルミネでは上下から交互に出演者が出てきて、センターで物語の中と同じマイムをする形になっていました。
センターでのマイムの際に、中央モニターに役名→演者の名前に変わる演出はかっこ良かった。
このお芝居は追い追われるシーンがとても多かったので、オープニングにそれが入ってるのは象徴的だったな。

あとこの再演でおお!と思ったシーンは、冒頭の鉄男のシーン。
母親に「殺すぞ!」と暴言を吐いたくせに、作ってもらったオムライスに「これがまた美味いんだよなぁ…」と
しみじみ呟くことで、ブラスト犯行予告の「家族を殺す」に怒り震えるのも説得力が出てました。
あーコイツ引きこもって遅すぎる反抗期だけどお母さん好きなのね…と思わせる所とか。
ちょっとしたことだけどこれは吉村さんの腕かな。(後に徹さんの寝坊による尺調整だったと判明しましたが笑)
ここがすごく良かったので、その後のたまごアレルギーの件は見なかったことにしようw

アドリブは結構盛り込まれてました。単純に考えて、公演時間自体30分伸びてるものね…
神保町では恒例だった免許証のくだりも健在で何より。※吉村さん、本坊さん、徹さんは話の中で免許を見せるシーンがあります。
今回は梶さんとつかささん(ゴールド免許)と新喜劇の国崎さんとルミネのスタッフさんの免許証だったそうで、
カーテンコールで房野さん「みんな気付いてないと思うけど、ほんとに一瞬息止まるから!」と憤慨してました笑
細かいところだと青山(亮さん)とワカナ(水口さん)がオバケ姿でいちゃつくシーンで
亮さんが水口さんを後ろから羽交い締めにして「俺、オバケ姿のワカナ見ると興奮するんだよ!」とか、
気絶した上村(石田さん)が起き上がる時に何かしら一言言ったり、それが梶さんに伝染して大変なことになったりとか、
前半はかなりお遊びが盛り込まれてたのでコメディ芝居みたいでした。お客さんの笑い声も多かったしね。
亮さんがヘイボーイ!とリゾート気分!をぶっ込んでた気もするなw
メインの二人以外は割と遊んでた気がします。芝居の世界観いずこへ…!笑

初演を見て何度も思ったことですが、房野さんの泣きの演技は良い意味で狡い。前半と後半の緩急の差は何度見てもやられる。
警備員の西郷である間はツッコミも含めて房野さんの要素がふんだんに盛り込まれてるのに、
後半になってから徐々にブラストとしての顔に変わって行く経緯は何度見てもゾッとします。
象徴的なシーンとして、黒石・板井・鉄男の3人がブラストを罵倒する場面があります。
あのシーンで西郷は頷いてはいるものの一言も喋らないのよね。ただ黙って、ポケットに手を突っ込んで、時折頷くだけ。
ここが引き金になって事態が急転して行くと思うとたまらんな。

ワカナを撃った黒石が逃亡を計り、殺し屋レッドウルフとして正体を現してから
西郷の哀しみと恐怖、ブラストの怒りや憎しみが一遍に吹き出して狂気に変わる。
「そうだよ…俺が『ブラスト』だ」
この瞬間は見たくなかった現実を突きつけられたような、そんな気分になります。
とにかくワンシーンに感情が入り乱れすぎて付いて行くのがやっと。
殺人鬼であるブラストがハマり役かと聞かれたらうーん…と首を捻ってしまうのですが、とにかく房野さんは上手かった。
序盤から初演の時よりチカラ入ってるなあとは思っていましたが、圧巻でした。

思う所はたくさんあるので別記として勝手に考察を書き記します。
長くなりそうなので、まとめ。
この「ブラストが笑う夜」という作品は、このキャストでなくては成立しなかったと思います。
梶さんのおじいちゃん役や水口さんの女装刑事はかなり上手かったし、若月のふたりも上手かった。
ブロードキャストのふたりと本坊さんも上手かったけど、とにかく梶さん水口さんは別格。
梶さんとソラシドは石田さんならではのキャスティングだと思うし、だからこそ色がついたのかも。

脚本家としての石田さんが何を伝えたかったのか考えてはみたけど、迷路にハマりそうなのでやめました。
けど、事実とリンクしている箇所が多い分、彼のファンのみならず何かしら考えさせられる作品なのだと思います。
姿の見えないネットを盾にする弱さ、大切なものを失って人として堕ちてしまう弱さ、
怒り、憎しみ、軽蔑、哀しみ、恨み、マイナスの感情が複雑に絡まってラストを迎えるこのお芝居を
それでも良い作品だったと思えるのは、脚本・演出・出演者のバランスが良かったからでしょうか。
胸に何かを残してくれる作品に出会えたことに感謝。

ブラストが笑う夜の再々演を望むのもいいけど、同じメンバーで別の話も見てみたいなあ。
今度は思い切り笑えるような、そんなお話を見てみたいです。