哀しみが少し癒えたら〜奇抜探偵・四条司の絢爛たる誕生〜

公演期間:2011年6月7日〜12日(全6回公演)
出演:囲碁将棋/井下好井/タモンズ/ゆったり感/KBBY/いぬ/大室由香利(劇団集団Nの2乗)
脚本:福田晶平 演出:足立拓也(マシンガンデニーロ)

奇抜探偵シリーズ3部作の2作目。神保町花月では珍しい推理もの。
前回の公演*1が面白かったので、
2作目も見てみようと思い立って見てきました。
文田さんによれば繋がりそんなにないから1作目を見てなくても楽しめるよ、とのことでしたが
確かに単体のお芝居として見ても面白かった。

ざっくり役柄おさらい。
公演パンフレットより抜粋させていただきました。

四条司(22) - 囲碁将棋・文田
 卓越した推理力、洞察力を持つ男。大学を卒業後、就職することなく家庭教師のアルバイトをしている。
煙山正義(22) - 囲碁将棋・根建
 刑事。国家公務員Ⅱ種試験を経て採用された準キャリアのため、新人ながら階級は巡査部長。
 四条とは大学時代からの友人。
竹下大(22) - 井下好井・井下
 鑑識課の新人鑑識官。煙山とは同期。
田村宗助(14) - 井下好井・好井
 江戸時代から続く資産家である田村家の嫡男。
田村宗平(40) - ゆったり感・中村
 宗助の父。江戸時代から続く資産家の現当主。
田村景子(39) - KBBY・山崎
 宗助の母。宗平とは幼なじみで子供の頃から許嫁だった。
田村勘太(32) - ゆったり感・江崎
 宗平の弟。夫婦で館に住んでいる。商才はなく、いくつかの事業に失敗している。
田村美枝(29) - KBBY・BB
 勘太の妻。京女で少し嫌味な所がある。
富来哲郎(42) - タモンズ・大波
 田村家の執事。田村家の家事の一切を取り仕切る。
手塚圭(26) - タモンズ・安部
 田村家直属の運転手。雇用期間はまだ1ヶ月ほど。
奥村恵(21) - 大室由香利
 田村家で働く住み込みのメイド。
警官 - いぬ
 捜査に駆り出されている警官。


見る前は役の年齢と中の人があまりにもそぐわず、ん?となる点はありましたが
いざ始まってみたら話そのものに引き込まれるもんですね。
現在と過去の回想がある四条と宗助はもうちょっと差別化してほしかったけど、許容範囲内。
欲を言えば富来役の大波さん。初見時に髪の色もそのまんまだったんで、
ストーリー中に中村さん演じる宗平より2つ上だって明かされた時にさすがえっ?となってしまいました。
(楽日には白髪仕様に。要望があったんかな。)
タイトルからして前回以上に悲しい結末なんだろうな、と予想してたのですが
まあ簡単に斜め上を行かれまして、案の定はらはら泣いてしまいました。

今回のお話は推理モノとしてはとてもオーソドックス。
毎回ちょっとした犯人当てクイズが挟まれるのですが、四条探偵のヒントですぐわかっちゃったよ。
先入観を捨てること=容疑者が生きているとは限らないと言うことは
全体見た上で色々辻褄を合わせた結果、“そうしなければならない理由”がある人物は一人しかいないんだよね。
共犯者も含めて、完全にある人物の差し金で動いてるんだろうなーと前半で気付いてしまいました。
なので推理を軸に置くと前回より裏切られた感がなかったかな。
(前回は完全にパンフレットの先入観に踊らされてまんまと外してしまったので。)
いやでも確かにオーソドックスな分、安心して見られました。細かなディティールまではなかなか推理できないし。

この奇抜探偵シリーズの面白い所は、主役である四条が決して物語の主軸じゃないって所だと思うのです。
もちろんその奇抜な行動や服装、言葉選びや言い回しの独特さ、推理劇などは面白いのですが
この「哀しみが少し癒えたら」に関して言えば物語の主軸はやっぱり宗助くんになるのかな。
唯一の心情描写も、宗助くんが趣味で書いていた探偵小説風の演出で所々散りばめられてたしね。
完全に暗転しない状態での場面転換や、テーブルクロスに文字を投影する演出はすごく良かった。
あと過去の回想だからなのかな、事件を連想させる無機質な赤パイプのセットや
家族写真を撮る赤いカメラ、食事シーンに出てくる赤い食器など赤がとても印象的でした。

宗平、景子、宗助、そして富来を加えて4人で家族写真を撮るシーンはすごく好きでした。
本当の家族である3人と、田村夫妻の幼なじみであり宗平の腹違いの兄でもある富来。
一見するとすごく歪んだ家族の形にも見えますね。
ストーリー中に亡くなってしまう役の中村さんが一番生き生きするシーンでもあります(笑)
安部さん演じる手塚がここぞとばかりにボケるのでノリツッコミ大会。長かったなー笑
楽前の公演で宗助が富来をチョコで呼び寄せる、と言うくだりがあったのですが
本人達のビジュアルもさることながら、42歳の執事が14歳の御曹司にチョコで釣られるのを勝手に脳内変換したら
とても微笑ましくてヘラヘラしてしまいました。
全体的に悲哀漂う劇中で、唯一の幸せだったのかな。
一点だけ、もうちょっと丁寧に演じてほしかったのはここから次のシーンへ移る場面転換の直前。
富来が物憂げに雨空を見上げて暗転、のはずなんですが余韻がまったく無かったのが気になりました。
まああの空気じゃ無理だろうな笑

神保町花月での評価が高いゆったり感ですが、中村さんはやはりすごかった。
寛大で聡明でお茶目な資産家の当主・宗平を上手く演じていましたし、
あらゆる場面においてとんでもない存在感を放っていて、この人は役者気質なんだなーとつくづく思ってしまいました。(芸人だけどね)
特に謎解き後、宗平から富来へ託したノートのシーンは本当に熱演すぎて
緊迫した真面目なシーンなのに舞台上の出演者全員が笑いを堪えてるという前代未聞の事態(笑)
それでも見る者を引き込む泣きの演技は素晴らしかった。おふざけも挟んでたみたいですけどw
中村さんの目や表情の動かし方が好きです。なんとなく無機質なのに暖かみがあるので、目が離せなくなる。
それにしても父親役はハマり役なんでしょうか。花曇と言い、泣かせすぎ。

主軸とはもっと別の所で良かったのは四条と煙山の情報交換かな。
部外者に漏らしてはならない捜査の情報の伝達だけじゃなくて、半年ぶりの再会の気恥ずかしさみたいなもんも
鑑識の竹下をクッションにすることによって演出されてたのかなーと。
ビジュアル的にも22歳の煙山が準キャリア丸出しでかわいかったー。
四条大橋!からの俺だい!とか、真・四条大橋命名とか、囲碁将棋感出過ぎて笑ったw
ふたりのシーンは並んだだけで安定感醸しちゃうからな。敵対する役でもないのでほのぼの見れました。

思ったより長くなってしまった。演者の細かい部分を言い出したらキリがなさそうなのでまとめ。
タイトルの「哀しみが少し癒えたら」に繋がってくるラストシーン。
宗助は報われたのでしょうか。四条は彼の救いになっていたのでしょうか。
この物語の全てをひっくるめて、私立探偵・四条司の助手である宗助のバックボーンメイクに繋がったのだと思います。
だとすれば1作目で見た四条への敬慕の念も納得いきますね。なるほど。
完全に憶測ですが、感情のベクトルとしては宗助→四条と富来→宗平が似通っているのかなと思います。
宗平に心服していた富来を慕い見て育ってきた宗助にとって、四条は父と似て非なる対象になっていくのかも知れません。
そう思って見てると面白いなあ。

今回は四条司というより宗助メインだったので、レギュラー出演者のサイドストーリーも見てみたいなー。
四条が奇抜になった理由は元より、煙山が刑事を目指した理由とか、四条と煙山の大学時代とか。これはメインの物語になるのかな。
人間性で言えば鑑識の竹下の短絡さも気になる所。
シリーズものは色々と考察できて面白いですね。3作目はどうやって描かれて行くんだろう。楽しみ。

*1:「ミッシング・タイム〜奇抜探偵・四条司の堂々たる推理〜」